世界初の望遠鏡型コントローラーはどう生まれた?デザイナーに聞く裏の話

Atmophの新たな挑戦として、2024年に3世代目の『Atmoph Window Yo』を発表しました。その大きな特徴のひとつが、世界初の望遠鏡型コントローラー『Atmoph Scope』。

この新製品の開発背景には、窓を通して、エンターテイメント体験を提供したいという思いがあります。これまでのAtmoph Windowが持つ「風景を見て・聴いて楽しむ」をさらに進化させるために、Atmoph Scopeが開発されました。

Scopeの登場により、今まで以上に現実の風景の中にいるかのような感覚を得ることができるでしょう。この記事では、Atmoph Scopeの誕生には、どのような背景があったのか、そしてどのようにしてこの形になったのか、デザイナー2名(垂井、むねくん)と代表の姜(かん)に話を聞きました。

メンバー紹介

むねくん: アトモフのデザイナーであり、新商品「Atmoph Scope」の発案者。無類のガジェット好きで、国内外問わずいろんな製品を見つけては試し、その情報を社内にも共有してくれる存在。社内の呼び名は「むねくん」。

垂井: 取締役 兼 デザイナー。AtmophのWebサイト、アプリ、窓の中のUIまで、ユーザーが出会うすべての部分でのデザインを手がける。

姜(かん): AtmophのCEO。LA留学時代に、Atmoph Windowのアイデアを思いつき、3世代にわたってこの「未来の窓」を進化させてきた。

加藤: メディアコンテンツエディター。本記事のインタビュアー。

延長線上ではなく、全く別のプラスXを見つける

―― Atmoph Window 2(以降、AW2)とAtmoph Window Yo(以降、AWYo)で、違うことをやろうということで、Atmoph Scopeが出てきましたよね。新しいコントローラーが生まれたきっかけを教えてください。

姜(かん): まず、ハードウェアって導入期・成長期・成熟期・衰退期っていう製品ライフサイクルがあるから、やっぱりどこかのタイミングで新製品は考えないといけないんだよね。

それで今回新製品を考えるにあたって、未来でも勝負できる、グローバルスタンダードになれる、AW2の制約を取っ払える、この3つを成し遂げたいと思った。風景を楽しんで、世界とつながって、癒しが得られる、これはAW2で達成できたかなと思うので、それを大きく超えたかった。そこで考えたテーマが「エンターテイメント」でした

ゲームとか、メタバースとか、いろんな体験がある中で「アトモフが提供できるエンターテイメントってなんだろう?」をずっと考えてました。アトモフで「エンターテイメント」を強めていくなら、見てるだけではなく、ユーザーと窓との間でやり取りがあるといいんじゃないかなとか。

AW2は赤外線リモコンやスマホの操作だったのに対して、次は「ポインティング」を取り入れるのはどうだろうというアイデアがあった。これが、その後望遠鏡型のAtmoph Scopeになるスタートラインかもしれないですね。

垂井: ポインティングは、姜さんがずっと言ってましたよね。私はAW2からAWYoと世代が変わるのに、ユーザーからみて「どこが変わったんだろう?」って感じるのは嫌だなと思ってました。その時、むねくんも「絶対にユニークポイント必要ですよ」って言ってましたよね。

むねくん: 言ってましたね。新製品を考えるにあたって、何度もアイデア出しをやりました。でも最初はAW2をベースに改善するとか、少しだけ進化させるとか、AW2の延長線上のアイデアばかりだったんです。

でも「せっかく数年ぶりに新製品を出すのに、それだともったいないよね」ということで、AW2の延長線ではなく、全く別次元のプラスXが必要だと思ったんです。その時に姜さんが、ゲームのようなエンタメ要素も入った「ウィンドウテインメント」にしたいと言ってました。

でも社内では「Atmoph Windowでゲーム?」という反発は結構あったんです。Atmoph Windowは今まで「観て、聴いて、楽しむ」ことが前提で、できるだけ操作をしない方向できたので、逆方向に進むことに違和感を覚える人が多かったんじゃないかなって。

―― 最初は社内でも反対意見があったんですね。

むねくん: ありました。でもぼくは「ウィンドウテイメント」がずっと気になって、どうにかこのアイデアを進められないかなと考えてたんです。大学でプロダクトデザインを学んでたので、ハードウェアの視点からウィンドウテイメントを取り入れられないかなと。

垂井: 「プラスX」を何にするか、だいぶ長い間話し合ってたよね。

むねくん: みんなどうしようかって空気になってる時、姜さんが社内のチャットに「みんな、来週のミーティングまでに、とにかく尖ったアイデアを考えてきて」って。

垂井: 言いそう(笑)。

―― その時は他にどんなアイデアが出てましたか?

垂井: 私は「ATMOPH BARs」を提案しましたね。AW2までは付けられるモジュールの数が限られてたんですけど、その制約を取っ払って付けたいだけモジュールを付けられるといいなって。それは近い形でAWYoに取り入れられてますね。

むねくん: ぼくはその時に「Atmoph Scope」の案を持っていきました。ユニークなハードウェア、例えばNintendo Switchの「カチャッ」というコントローラーとか、iPodのクイックホイールとかって、インターフェースに個性があるんですよね。Atmoph Windowにも、こんなインターフェースがあったら面白いんじゃないかなって思って。誰もが一目見たらちょっとやりたいな、触ってみたいな、と思えるような。

むねくん: アトモフの「日々を冒険にする」というコンセプトとか、風景というコンテンツ、それに関するアイテムってなんだろうと考えた時に、「望遠鏡だ」と思い浮かんだんです。「姜さんが言っていたポインティングにも繋がりそうだぞ」って。

当時『ワンピース』のアニメを結構観ていて、その演出にも望遠鏡が出てくるんですよね。「冒険と望遠鏡、これはつながるな」と改めて思いました。

―― こんなに大きくはない(笑)

垂井: 姜さんが「ウィンドウテイメント」って言った1ヶ月後、むねくんが初めてAtmoph Scopeの資料を出してくれたんだよね。

姜: Atmoph Scopeを提案してきてくれた時、みんなの「おーっ!」っていう嬉しい驚きがあったよね。どうしようって悩んでいたエッセンスが集約されてたから。

垂井: 窓っていう製品だからこそ成り立つアイデアだなって。

むねくん: そのあとはトイレットペーパーの芯で試したりもしましたね(笑)

―― Scopeのアイデアが採用されたときは、どんな気持ちでしたか?

むねくん: それまでアトモフであんまりいい成績残せてないんですよ。

姜さん・垂井: それはない!(笑)

むねくん: AW2の発売からは5年くらい経っていて、また次の新製品を作るのは、おそらく5年後になるわけじゃないですか。そう考えると貴重な経験だし、ハードウェアやソフトウェアのプロフェッショナルの方も社内にいる中、自分はデザイナーとして頑張らなければ、と思っていたので素直に嬉しかったですね。

姜: Atmoph Scopeは、今回のAWYoの顔でもあるし、発展していける可能性がすごい見える。素晴らしい土台かなと思いますね。

方向性が決まり、世界で活躍するacassoにデザインを依頼

―― 望遠鏡という方向性が定まり、そこからの具体的なデザインはどのように決まっていきましたか?

姜: Scopeも大事なんだけど、Atmoph Window本体もより良くするために、改めてデザインを見直そうと、世界中のいろんなプロダクトデザインの会社を検討しました。

AW2は、窓枠が付け替えられるシステムを導入したんだけど、今回は世界で受け入れられるインテリアとして、シンプルかつミニマルなデザインがいいんじゃないかと。

それで韓国のacassoというデザイン事務所に決めました。

垂井: 彼ら・彼女らはすごく優しくて、表現もマイルドだし、私たちの要望に対して「じゃあ考えてみようか」と言ってくれるんです。でも、自分のデザインに対しての芯はしっかりと持っているから、適当に自分の意見を曲げるようなことはしない

でもこだわりが強いアーティストのように「絶対に変えないぞ!」という感じでもないので、そこのバランスがすごい上手っていうかね。やっぱりプロですね。

―― acassoにデザインを依頼するにあたって、どのように伝えましたか?

むねくん: ぼくからは、望遠鏡というコンセプトや、未来感を出したいなど、本当に大まかな方向性だけ伝えて基本はお任せしました。

垂井: そう、こちらから細部を伝えすぎると、デザイナーの思考も狭まってしまうからね。

姜: プロに信頼して頼むからには、その人の良さを活かさないともったいないよね。こちらが考えるのは、最低限必要な情報は何だろうとか、向こうに足りないことは何だろうとか、あとはビジョンを伝えるだけ。

実際にソウルの事務所に訪問した時、ポストイットでたくさんアイデア出しをしてくれていて、めちゃくちゃ考えてくれてるな、やっぱり信頼して正解だったなって思いましたね。

むねくん: 世界的に活躍されてるデザイナーなので、もっとイケイケな人かと思ってました(笑)。アメリカでもともとデザインをしていて、韓国に戻って、事務所もめちゃくちゃおしゃれな感じなので。でも実際にお会いすると、腰は低く謙虚で、芯はあって、誠実で、びっくりしました。

垂井: acassoのスタッフ、みんないい人ですよね。

姜: しばらくして最初のコンセプト提案みたいなのが来ました。まだ考えてるよってフェーズだったんだけど「こんなデザインの方向性どうでしょう?」って出てきた資料がもう、めちゃくちゃかっこよかったんだよね。そこから何度もやりとりをして、ややデザインは変わっているけれど、とにかく素晴らしくて。これは楽しみなものになるぞと確信できました。

むねくん: 本当にかっこよかったです。想像以上のものが出てきたし、見た瞬間に「まさに欲しかったものだ」って。8万円ぐらいでも即ポチだなと思いました。

―― 社内の人が欲しいと思う感覚って大事ですよね。デザインはすんなり決まりましたか?

姜: 大きい方向性は2パターンぐらいあったけど、いろいろ経て今の形を選びましたって感じだよね。

Scopeは目玉のプロダクトではあるんだけど、全体のバランスがうまく調和しないと変なことになっちゃうんだよね。そのバランスをとりつつ、Scopeをユニークポイントとして尖らせないといけないのはチャレンジだよね、っていうのはacassoのデザイナーも言ってました。

当然デザインして終わりじゃなくて、プロダクトとして実現可能なものじゃないと意味がない。形とかデザインとか機構とか機能性とか、全て踏まえて「これまでにないもの、ユニークなものを作る」って言葉で言うほど簡単ではないんだよね。

―― ポインティングとズームはできる?

姜: できます。ポインティングやズームってシンプルなんだけど、実はすごく難しいことで。いろいろなセンサーを組み合わせ実現し、特許も出願してます。これはAWYoの基本機能であり、目玉でもあるので、ちゃんと提供しないといけない。

―― ズームはどのような仕組みになっているか、少しだけ教えてもらえますか?

姜: 風景のポイントしている周辺を円形に拡大する、それがズーム機能。当然拡大すれば画質が荒くなってしまう。何倍までなら見るに耐えられるかとか、AIを使って荒さを補完できるのかとか、いろんなことを研究しています。

このズーム機能を起点に、風景から何かを発見するとか、バトルするとか、冒険するとか、最初に伝えた「ウィンドウテイメント」の可能性が広がるんだよね。今後いろんなコンテンツを作っていきたいと思っているので、乞うご期待ということで!

おまけ

―― 洋子さんとむねくんは、表に出るのが苦手だったりしますか?

垂井: 私は苦手やけど、むねくんはどうなんやろ。

姜: 言ってやってよ、むねくん。

むねくん: 根本はパンクです。